世界の干潟
日本自然保護協会 『自然保護』(1992年11月)を基に一部改変(禁転載)
世界中の湿地は古くから人間活動と切り離せない関係にある。その多くがすでに開発のために失われ、現在残っている湿地も農業開発、工業開発のために脅威にさらされている。
しかし、最近ではその生物学的多様性と生産性の高さ、また近海の漁業資源維持の点から、世界各国で干潟保護のための活動が始まっている。
そこで、世界のいくつかの地域の代表的な干潟を紹介したい。
1. 北米・南米
米国では多くの干潟が干拓され、牧草地となってしまった。なかでも東海岸のボストンでは、19世紀初めにはすでに大部分の干潟が製材所や鉄道建設のために失われた。
しかし、最近、米国をはじめとする新大陸において、干潟の保護は自然保護の重要な課題となってきている。
おもな例をあげると、カリフォルニア半島南部、パナマ湾、キューバのザパタ半島沿い、エルサルバドル・ホンデュラス・ニカラグア3国にまたがる中米太平洋岸のゴルフォ・デ・フォンセカの干潟などがある。また、ブラジルでは、東海岸の干潟が農業、都市開発、汚染の脅威にさらされている。
2. アフリカ
アフリカの主要な干潟のひとつに、モーリタニアのバンク・ダルガン地域がある。この地域では先進諸国の援助によって、保護のための調査研究活動が促進されている。
バンク・ダルガン国立公園が設立されたのは、1974年6月。東大西洋に面し、南北180キロメートル以上にわたる広大な国立公園だ。総面積は1万2000平方キロ。このうち干潟が占める面積は、500平方キロに及ぶ。
ここは東大西洋のシギ・チドリ類の代表的越冬地である。毎年200万羽以上のシギ・チドリ類が越冬し、さらに150万羽が渡りの際に通過する。
具体的にはシギ類として80万羽のハマシギ、50万羽のオオソリハシシギ、36万羽のコオバシギが記録されている。また、ヘラサギ、フラミンゴ、ペリカン、ウ、アジサシも数多く見られ、固有のアオサギの1亜種もいる。
また、アオウミガメの保護にとっても重要な地域である。
3. ヨーロッパ
ヨーロッパの干潟は古くから開発されつづけてきたが、最近では保護のための活動が活発になってきている。そのなかでも注目すべきはワッデン海の保護であろう。総面積は9000平方キロ。ドイツ領60パーセント、オランダ領30パーセント、デンマーク領10パーセントと3カ国にまたがっている。
ここは北海の魚類の重要な孵化場であり、ハマシギをはじめ西ヨーロッパのシギ・チドリ類の10パーセント以上がこの干潟を利用すると推定されている。
鳥類の越冬を調べてみると、オランダ領だけでミヤコドリ29万羽、コオバシギ11万1000羽、オオソリハシシギ9万3000羽が記録されている。
また、ドイツ領では夏の後半に10万羽ののツクシガモが集まってくる。ちなみにこれは世界的な記録である。
さらにここは、アザラシの保護においても重要な地域である。
とはいえ、63年以降、350平方キロを囲む堤防が築かれてきており、現在、さらに230平方キロを護岸する計画がある。
ワッデン海の保護に関する共同宣言が前述の関係3国から出されたのは82年。87年には、そのための事務局が設置された。ここは、ラムサール条約の「ワイズ・ユース(賢明な利用)」の研究対象地域でもある。
4. アジア
来年6月に釧路で開かれるラムサール条約締約国会議では、アジア地域の湿地の保護が重要課題のひとつになっている。
アジア諸国では人口の多くが沿岸部に集中しているため、干潟に対する開発圧力は強い。
最近ラムサール条約に加盟した中国では、沿岸部には2万平方キロを超える塩性湿地と干潟があるといわれる。南部沿岸は岩が多いため、干潟は主として北部に分布している。
朝鮮半島では約1万平方キロの湿地があると准走されており、その大部分は入江や干潟である。韓国だけで、西部と南部に約6300平方キロの干潟があると推定されている。
東南アジアでは、干潟の多くでカキやほかの貝類の養殖が行われている。
ほかには、パキスタンのインダス川デルタ(約6000平方キロ)、インドとバングラデシュにまたがるスンダーバン(6000〜7000平方キロ)、ベトナムのメコンデルタの干潟などがあげられる。
干潟の保護に関しては、多くの国で独自の取り組みが始められたばかりであり、今後は各国の経験をもとに国際的な情報の交換、監視体制作りが必要である。
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