メキシコ湾の死の水域
米テネシー州メンフィス、2001年2月9日
湿地保全に国際的な活躍をしている「ダックス・アンリミテッド(Ducks Unlimited)」の生物学者達がこの日の朝、メキシコ湾の『デッド・ゾーン(死の領域)』として知られる貧酸素水域を減らすための「ミシシッピー川/メキシコ湾集水域栄養研究班」の計画を評価した。この計画は米国環境保護庁(EPA)によって1月18日に議会へ提出されたものだ。
この計画の目的は、ミシシッピー川に流入する窒素とリンのレベルを既存の事業を通じて特定地点や全般的に軽減する方法を探るものだ。これらの栄養塩が雨や風によって陸地から流し込まれたり、下水処理施設から排水されることによって、大小の河川に入り込む。ダックス・アンリミテッドの自然保護事業部長スティーブ・アデア博士は、「これら生物増加を促す物質の過剰な蓄積が起こり、メキシコ湾での藻類の異常繁殖の引き金になる。寿命が短いこういった生物が死滅し、分解されることによって、水底付近の水から酸素が消費されてしまい、『デッド・ゾーン』が形成され海洋生物は他へ移るかさもなくば酸素不足で死んでしまうことになる。」と説明している。貧酸素水域は米国中で発生しており、主要な河口域の半分以上で問題となっている。ミシシッピー川の河口であるメキシコ湾では、ニュージャージー州に匹敵するほどの広さを持つ『デッド・ゾーン』が発生することもあり、全国的にも問題の焦点となっている。
ダックス・アンリミテッドの自然保護プログラム調整員アラン・ウェンツ博士は「研究班の計画は我々が支持してきた『自然保護区プログラム』や『湿地保護区プログラム』といった全国的な再生プログラムの重要性を強調している。両プログラムに参加している地域は当初予定終了に近づいており、新たな参加のためには臨時参加費が必要となっている。このため、土地所有者が新規に加入しにくい状況となっている。」と述べている。2002年に予定されている「農地法」改正によって、これらのプログラムは再び新規加入を受け入れるようになり、さらに多くの湿地が再生されることにつながる。しかしウェンツ博士は「改正のタイミングは遅すぎる」と言っている。
湿地は、汚染物質が水流に侵入する前に吸収してくれる、天然の水フィルターの役割を果たしている。ウェンツ博士は「貧酸素水域に関わる一連の動きを好意的に見ている」と言う。「この問題が議論されることによって、湿地が天然の水フィルターの役割をしていることに注意が払われることになる。もし『デッド・ゾーン』を汚水と見なすなら、湿地はその浄化に役立つスポンジだ。」米国工兵隊が水流調整で果たす役割を減らすという、最近の最高裁による決定の余波として、湿地保全のあり方が注目を浴びている。ウェンツ博士は、「我々はこの決定で起こりうる影響を調べるために調査チームを派遣した。まだ検討中の段階だが、わが国に残されている湿地の約20%にもなる、孤立した湿地に対する保護の網が取り除かれることになるかも知れない。これらの湿地が失われれば、メキシコ湾の『デッド・ゾーン』のような我が国の水質問題の多くが、一層悪化することになるだろう。」
湿地に関連した最近の話題として、米国魚類野生生物局が最近発行した報告書によれば、湿地の破壊速度がかなりスローダウンしてきたと示唆されている。ウェンツ博士はこれに対して次のように述べている。「湿地の損失率が年間58,000エーカーに落ちてきているとこの報告書では言及しているが、この点には懸念を持っている。湿地植生では年間109,000エーカーの速度で失い続けている。湿地植生はすべての湿地タイプの中でも最も素晴らしい野生生物の生息地であり、水質に関しても最も恩恵の大きなものだ。湿地の増加は、養殖や都市部や地方での開発に伴った、植生のない池によるものが中心となっている。それは限られた湿地の機能しか果たさない。そのような代償措置は公平な取引とは言えず、我が国の最も生産性の高い湿地の損失が現に今も続いていることを覆い隠すものだ。」
ウェンツ博士は米国は湿地の損失や劣化を防いで湿地を守るという目標からはかけ離れていると指摘する。数年前、クリントン政権は年間100,000エーカーの湿地を増加させるという決定をした。クリントンの前には、ジョージ・ブッシュが今から10年前に大統領選を戦っている際に湿地を「これ以上減らさない(No
Net Loss)」政策を決定している。「貧酸素水域という巨大な水質問題の観点からも、そういった目標を現実化する必要性はより一層緊急のものとなっている。貧酸素の問題が最も重要な米国南東部は、いまだに湿地損失が最もひどい地域だ。」
ダックス・アンリミテッドのスティーブ・アデア博士は『デッド・ゾーン』の問題に関わっており、魚類野生生物局の報告書を検討した。「ミシシッピー川流域の湿地は、特に中西部の穀倉ベルトにある州において、農家からの排水が川に入る前にフィルターとなる極めて重要な役割を担っている。ミシシッピー川がメキシコ湾に注ぐ前に川の水を浄化するルイジアナ州沿岸の湿地は、『デッド・ゾーン』に対する最後の防衛線となっている。魚類野生生物局による最近の調査結果によれば、ルイジアナ州沿岸における典型的な湿地タイプとなっている、河口域周辺に広がる湿地の損失率は年間で1,208エーカーとのことだ。同時に行われたルイジアナ州の調査では、年間約15,000エーカーという高い数字の損失が示唆されている。
『デッド・ゾーン』問題には簡単な解決法はない。しかし、我が国が直面している野生生物や水質といった重要な問題を解決するためには、湿地損失の速度をスローダウンさせるだけでは十分ではないことを知る必要がある。開拓が始まってからの1億エーカー以上失われた湿地を埋め合わせるために、湿地面積を増加させる新しい時代へと突入しなくてはならない。さもなくば我々は堂々めぐりを繰り返しているだけだ。」
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