グリーンランドにおける湿地保全の失敗
  (デンマーク政府、ラムサール条約履行に問題が)


 日本では環境先進国と呼ばれているデンマークではあるが、デンマーク領グリーンランドではかなりひどいことが起きているようだ。
 以下は2001年3月末にラムサール条約のフォーラムにデンマークから流された情報の日本語訳。ラムサール条約データベースによると、Aqajarua-Sullorsuaq (アカジャルア・スロスアク)はディスコ湾内ディスコ島にあるラムサール登録湿地。


>>>>>>>>>>
グリーンランド、保護区を無視
 〜デンマーク政府によりラムサール条約が無視され、
   履行が14年遅れる〜

 
グリーンランドの政治家達もデンマーク当局も、デンマークによって署名された国際条約を遵守することに関心がなかったため、グリーンランドの最も重要な2つの野生生物生息地において、そのユニークな野生生物が失われてしまった。
 問題の場所は北極地域西部におけるケワタガモのカナダ〜グリーンランドにまたがる個体群全体にとって最も重要な換羽場所となっている。規制されないままの狩猟とイガイ漁師達によって、ディスコ湾(the Gulf of Disko)Aqajarua-Sullorsuaq から3万羽のケワタガモを駆逐してしまった。
 2つ目の場所は8〜10万つがいのキョクアジサシ(Arctic tern)が繁殖地としていた地域だ。ラムサール条約を履行しないことで、卵の収集、狩猟や他の人為的干渉が行われ、そのため同じくディスコ湾の Gronne Ejland においてキョクアジサシがいなくなってしまったのだと考えられている。
 これらの地域は1987年にラムサール条約の登録湿地に指定されていたのだが、過去14年間に渡ってグリーンランド政府は地域の保護のために何の施策も導入しようとはしなかった。これは世界的な湿地保護のための条約に対する違反である。
 スイスのグランにあるラムサール条約事務局で事務局次長のニック・ディヴィッドソン氏はデンマークの新聞Politekenに対し、次のように語った。「14年間明らかに何もしてこなかったというのは、我々が通常受け入れることのできるものではない。条約によれば湿地が登録されてから遅くとも6年以内に条約履行のための措置がとられなければならない。もし計画通りに事が運ばなかった場合には事務局に情報を提供することが望まれる。今回のような事態は初めてのことである」

・デンマークは目をつぶってきたのか

 これまでのところラムサール条約の条項を無視することによってグリーンランドにおいて指定されている11の登録湿地のうち2ヶ所において、条約が保護しようとしている野生動物がいなくなってしまった。実際のところ、グリーンランドの11ヶ所の登録湿地は、全部で約50万ha(訳注:ほぼ千葉県と同じ面積)となっているがラムサールの場所として理論上存在しているに過ぎない。条約の言葉によれば登録された地域の動植物相を保護しなければならないのだが、管理計画、保護上の規制、交通上の規則、その他保護のための法的規制は一切存在しない。
 グリーンランド政府環境自然局のピーター・ニールセン局長はなぜ14年間何も行われてこなかったのか説明するのに苦労している。「おそらく誰も実行しようという政治的意志を持ち合わせていなかったのだろう。さらに、1980年に施行された自然保護法はラムサール条約履行のために必要な法的手段をとれるようにはなっていない。将来的には条約履行が可能となるような本当の意味での環境保護法を今作成している最中である。」
 デンマーク政府内でラムサール条約を担当している森林自然庁は、グリーンランドが条約に従っていないことや水鳥達が数年に渡っていなくなっていることを知っているにもかかわらず、条約が履行されていないことにはこれまでのところ目をつぶってきた。森林自然庁はラムサール条約事務局にこれらの問題について報告していないし、1998年には事務局から問い合わせがあったが何の返事も出されていない。
 条約事務局のニック・ディヴィッドソン事務局次長は「デンマークは条約加盟国であり、森林自然庁はグリーンランドにおける進展や問題点について報告する義務を負っている。しかしながら、我々は1998年の問い合わせに対して何の返事ももらっていないし、グリーンランドの問題について何も聞いたことがない。この問題については本格的に調査を始めるつもりだ。」
 森林自然庁の次長イェンス・シモンセンは、コペンハーゲンで次のように述べている。「条約に加盟しているのはデンマーク政府であり、条約履行がどのように進められているかについて報告するのは我々の義務である。しかしながらグリーンランド地域について責任があるのはグリーンランド政府である。我々は彼らが提出する情報を転送するだけであり、グリーンランド政府がうそをついているかどうか判断するのは我々ではない。」

・何も存在しない自然地域が5万ha

 ディスコ湾のAqajarua-Sullorsuaqは3万haあり、最初の登録湿地であった。しかしながら現在では、ケワタガモの換羽場所としての本来の重要性を失っている。規制されないままの狩猟やイガイ漁が鳥たちを追い払ってしまった。また、Gronne-Ejland地域もまたディスコ湾に位置し、2万1500haの面積を持っており1987年に登録湿地に指定された。ここでは、条約が履行されなかったことが最大の原因であり、卵の収集や他の干渉によってキョクアジサシの世界最大の繁殖地が払拭されてしまった。デンマーク政府の環境調査研究所の上級科学者ディヴィッド・ボートマンはグリーンランドのラムサール登録湿地における調査プロジェクトをもうすぐ終えるところである。彼は「Aqajarua-Sullorsuaqは北極圏西部地域のカナダとグリーンランドにおいて、換羽するケワタガモにとって最も重要な地域であった。今日ではもしいたとしてもわずか数百羽がいるのみである。登録された地域の保護を促進するというラムサール条約の条項が守られていれば、この事態は避けられたはずだ。」と述べている。


                                                                
                                                           前ページへ戻る