*「『ゴメ』の営巣にどう対応していくべきか

   ―釧路市を事例として―」

  How We Should Cope with Seagull-Nesting

      ‐A Case of Kushiro City

 

                  13-1197 矢萩

要旨

 オオセグロカモメLarus schistisagusは,本来は海岸の断崖や島嶼で繁殖するとされていたが,北海道では1980年代以降,港湾施設の防波堤や建物の屋根での営巣が増加している.建物での営巣では,フン害や鳴き声による騒音などの被害が発生するようになり,人との間で軋轢が生じている.

本研究では,オオセグロカモメの営巣による被害への取り組みの必要性およびその内容について,釧路市をフィールドとして検討した.具体的には,第1に釧路市における営巣状況について調査し,被害の現状を調査する際の基礎資料を収集した.次に,営巣調査による結果をもとに,市民への聞き取り調査を実施し,被害,対策,オオセグロカモメの営巣に対する意識の現状について明らかにした.また,北海道内の他地域における人工物での営巣状況や被害,対策の現状を明らかにし,参考事例や諸課題について整理した.さらに,自然営巣地での営巣数が減少していることから,被害対策の実施による北海道繁殖個体群への影響について考察した.最後に,大型カモメ類による営巣が社会問題となっているイギリス国内での対策手法の導入可能性について検討した.

以上の調査の結果,釧路市では2015年に908巣の営巣が人工物上で確認され,営巣状況から,人工物で営巣数が増加している要因として,水産活動からのエサ資源の存在と人工物での捕食圧の低さが考えられた.また,繁殖成績は比較的よく,今後も営巣数が増加することが予測された.釧路市では,営巣による被害がすでに発生していたが,効果的な対策手法は存在しなかった.ただ,港町である釧路市では,市民がオオセグロカモメの存在に慣れていることで,一定の被害が許容されていることが考えられた.しかし,営巣が大規模化すると被害が問題視される場合も見られた.また,市民からは本種の営巣に対して駆除の実施を要望する意見がある一方で,「可愛がっている」ような意見も見られ,取り組みの実施前には,これらの意見の調整が必要だと考えられた.北海道における人工物での営巣数増加の要因には,釧路市での調査結果と同様に,水産活動からのエサ資源の存在と捕食圧の低さが考えられた.さらに,これには,自然営巣地での営巣数減少との関連が示唆された.また,被害が発生している地域での営巣数は,北海道におけるオオセグロカモメの総営巣数の約4分の1以上を占めており,自然営巣地での営巣数が減少している現状においては,対策の際に北海道で繁殖する個体群の存続に影響を与えないように配慮する必要があると考えられた.北海道内の他地域における営巣による被害は札幌市,羅臼町,標津町などで発生しており,有害捕獲を含めた対策が実施されていたが,効果的な対策手法は札幌市を除いて見出されていなかった.また,イギリス国内においても効果的な対策手法は見出されていないため,イギリスで実施されている対策手法の導入可能性は極めて低いと考えられた.

 以上の結果から釧路市では,営巣に対する取り組みが必要であると結論付け,1)営巣や被害に関する学習会の開催と取り組みに向けた議論・調整,2)本種の営巣を惹きつけない環境づくり,3)港町の強みを生かした共存,4)他地域と連携した対策手法の開発と調査研究,5)自然営巣地での営巣数回復の5つの取り組みについて提言した.

 

 

「釧路湿原観光とエゾシカ

   エゾシカは本当に厄介者であるのか」

 

 

13-2098 山吹実悠  

要旨

 今やエゾシカは北海道全域に生息し、農林業被害や自動車や列車との交通事故増加など、社会問題となっている。さらに、生物多様性への影響も報告され、その被害が深刻化している。北海道ではエゾシカ保護管理計画に基づき、増加したエゾシカを適正値に戻すため捕獲数確保に努めているが、目標とする生息数には至っていない。

 道東地域では、40年以上に渡り人間とエゾシカの軋轢が続いている。農林業被害、交通事故はもちろん、釧路湿原内でも生物多様性への影響が確認された。シカ道の延長や絶滅危惧種ヤチツツジの食害、踏圧による植生の変化がみられるようになったのである。釧路湿原内でのエゾシカ被害が増加した背景には、国立公園と鳥獣保護区が関係している。自然公園と鳥獣保護区を併せて指定することで、自然公園の自然環境全般の保護効果をあげているが、これによりエゾシカは湿原内を安全な場所であると学習してしまった。湿原内にとどまるエゾシカや湿原を利用するエゾシカが増加したことで被害もより顕著となったのである。

 そこで、釧路湿原内でのエゾシカ駆除が検討され始めた。環境省総合研究推進費の中では、「釧路湿原にて超高密度化状態となったシカ管理を成功させる戦術と戦略」が提案された。

しかし、エゾシカは観光価値を有する動物でもある。実際に、北海道観光推進機構の公式ホームページでも「身近に会える」とされている。湿原観光に携わる方は湿原内でのエゾシカ駆除についてどのように思っているのだろうか。反対意見や、求めている条件はないのだろうか。調査の結果、湿原内でガイドや保全活動を行っている方々は「微妙なところである、仕方ない」としながらも反対意見は得られなかった。しかし、カヌーツアー、写真撮影やレクチャーを行う方々からは、駆除には反対しない一方、観光の面に関して反対意見を持ち合わせていることが明らかとなった。

釧路湿原やその周辺における被害を考えると湿原内でのエゾシカ駆除は避けられない。しかし、被害があると同時に北海道や釧路にとってエゾシカは観光価値を有するものである。観光業からは、エゾシカを厄介者の一言では片づけられない。観光業からの意見を見逃してはならず、配慮しながら駆除が行われるべきである。

 

NPO法人トラストサルン釧路の活動と資金について

  〜霧多布湿原ナショナルトラストを参考に〜」

 

 

13-1194 森井俊輔  

要旨

 本研究は、トラストサルン釧路が釧路湿原をナショナルトラスト活動で保全していくために資金の安定した収入源を得るためにはどうすればいいのかを論じることが目的である。

また、釧路湿原と同じ北海道の道東に位置する霧多布湿原をナショナルトラスト活動で保全している霧多布湿原ナショナルトラストという団体の活動を参考にする。理由は両団体の活動などには共通点があるのに、企業からの支援の数や国・市町村からの支援の内容には差がみられるからである。

トラストサルン釧路と霧多布湿原ナショナルトラストの両団体の現状を調査して比較分析を行った。その結果、霧多布湿原ナショナルトラストの方がトラストサルン釧路よりも多くの企業から支援を受けていることが明らかになった。また、霧多布湿原ナショナルトラストは広報活動などを行っている専任のスタッフを雇っているがトラストサルン釧路は雇っていないことが調査の結果明らかになった。ここから筆者は専任のスタッフの有無、もしくは専任のスタッフが行っている広報活動が支援と関連があるのではないかと考えた。

 そこでまず、専任のスタッフの広報活動と支援の関連を調べるため、企業のCSRレポートに専任のスタッフが行っている活動と寄付についての関連について記載がないか調べたが記載はなかった。また文献やネットから国・市町村からの支援と専任のスタッフの活動に関連がないか調べたが関連はなかった。

寄付は個人からも受けることができるが、いくら寄付をしたなど金額の具体的なデータを両団体のホームページや会報から調べたが記載がなかった。そこでどうしたら個人から寄付を得られるかという視点に考え方を変えて文献やネットを探した結果、環境省が主体となって行われた検討会の報告書をみつけた。この報告書では情報発信と寄付のしやすいシステム作りの重要性が述べられていた。この点は霧多布湿原ナショナルトラストが雇っている専任のスタッフが行っている活動と関連がみられた。

 以上のことを踏まえてトラストサルン釧路は霧多布湿原ナショナルトラストの活動を参考にすると、トラストサルン釧路はボランティアで広報活動を行ってくれる人材を若い学生などを中心に募集するべきであるという結論に至った。

 

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「蒲生干潟の環境

   震災後の影響とその復興」

 

13-2032 小林慶也  

 

要旨

蒲生干潟の環境について論じていくにあたり、蒲生干潟の歴史とその役割を確認し、震災前の状況と震災後の状況を比較した。その結果、蒲生干潟は現在進行形で再生しており、飛来する渡り鳥もその数や種類は震災前と同程度までになった。また、震災以前は見られなかった種類の底生生物、植物が確認され、生態系が変化しているという現状を理解することが出来た。また、国内の干潟の保全活動を知り、公的機関や民間団体や市民団体などの協同によって充実した保全活動が出来ていることを知り、参考にできる活動があるのなら蒲生干潟でも導入できないだろうか、それによってもっと保全活動が活発になるのではないかという結論を得た。