キーワードの解説

 (用語) (定義)

遺贈価値: 未来世代のためにもホエール・ウォッチングが存在し続ける、ということを知ることによって得られる便益。

選択モデル(Choice Modelling: CM): 仮想評価法の場合と同様、選択モデルにおいても仮定的なシナリオを通じて表明選好(stated preference)を計測するものである。しかしながら、選択モデルの回答者は、与えられた範囲の選択肢の中から自分にとって好ましいシナリオを選ぶように求められる。(また、個別選択モデルとも呼ばれる)

結合価値: 人間はホエール・ウォッチングから多くの価値を見出す。ある価値は、組み合わせることによって、それぞれの価値の合計よりも値打ちのあるものとなりうる。例えば、美しい景観が、高いレベルをもった他の環境上の価値と組み合わされた時には、2つの価値がバラバラにあるよりは貴重なものとなろう。ホエール・ウォッチングが行われている場所は、多くの構成要素からなっており、そのそれぞれが、この表[訳注:本文表3を示す]に挙げられているような価値を引き起こす。それらの構成要素が組み合わされてある場所を構成している場合には、その組合せ自体が価値を持ったものとなる。同様に、1組のアンティークの椅子は、まとまった時に比べると、バラバラに売りに出された方が価値が低くなってしまうだろう。二番目の状況としては、異なる価値を同時に受け取った時に、組み合わせ効果が発生することもあり得る。

消費者余剰: 特定場所への訪問や休日を過ごすために、大部分の人々が支払っても良かったと考える最大の額あるいは限度(彼らがそこまでは出せないと考える額のちょうど下)から、彼らが実際に支払った値段を減じたもの。これは、もし値段がもう少し高かったとしても、あるいはもう少し財、サービス、もしくは価値が利用できたのならば、消費者はその分の支払いをしたであろうことを意味している。消費者余剰は、非利用価値(基本的な支出を上回る他の価値)を計算するのに役立つ。こうして、例えば消費者がクジラを見るためにならば50ドル払ってもいいという意志を持っているとして、実際に払わなければならない額が20ドルだけだったならば、30ドルが消費者余剰ということになる。

仮想評価法(Contingent Valuation Method: CVM): 仮定的なシナリオで、サービスに対して観光客が支払ってもいいとする支払意志額と観光客の価値を調査することによって、需要曲線を推定しようとするもの(時に、直接調査手法とも呼ばれる)。非利用価値を推定するのに役立つ。

生産費用: ホエール・ウォッチングまたは関連サービスを供給するために、必要とされるすべての投入(インプット)の財政価値。または運営費用としても知られる。

費用便益分析(Cost-Benefit Analysis: CBA): 異なるプロジェクトの選択肢のそれぞれがもつ、純社会便益を評価するためのアプローチ。資本の支出計画あるいは事業運営がもたらす便益と費用を、金銭に換算して定量化しようとする試み。あるプロジェクトを推し進めるかどうかの決定は、発生する便益と費用の評価によって左右される(時に、社会厚生費用便益分析とも呼ばれる)。

費用/便益の配分: 産業発展の結果として生じる、収入の配分パターンの記載。

経済影響分析: ホエール・ウォッチング参加者による支出のように、市場で取り引きされうる価値の計測値を見る研究(それは、ホエール・ウォッチングのような与えられた選択肢がもたらす、経済便益の部分分析に過ぎない)。

経済厚生: 状況によって決まる、2つの異なるタイプの価値として言及されうる。
●社会の価値という点から経済厚生は、「幸福」、「効用」、あるいは「満足」を意味する。経済学の主要な目的は、ある一定の資源利用から社会が感じることのできる、経済厚生の量を最大にすることである。
●経済厚生はまた、経済の健全性のことを指している。

経済厚生分析: 社会の全体的な経済厚生を見る研究。社会全体による選択を分析するための、包括的で「経済学的に正しい」アプローチ(厚生分析としても知られる)。

生態系機能、または生態学的機能: 生息地、生態学的資産あるいはシステムの資産、生態系のプロセス。生態系の財やサービスは、人間が生態系の機能から直接または間接的に引き出している、便益を表している。

生態系サービス、または生態学的サービス: 海洋生態系内において、クジラ類が生存し続けることによって提供される、人間生活を維持する機能。

存在価値: 現在あるいは将来における個人的な利用があり得るかどうかに関わらず、体験としてのホエール・ウォッチングが存在し続けるということを知ることから得られる便益。

財政価値: 一般の人々は、ホエール・ウォッチング体験が持つ価値の多くにアクセスするためにお金を支払う。この収入は、ホエール・ウォッチングのツアーを作成するための費用をまかない、投資した資本に対する収益と同じものである、株主のための利潤を作り出す。この利潤は、ホエール・ウォッチングと呼ばれる経済活動によって生み出された富であり、したがって、この産業による国家経済の福祉への貢献を表している。財政価値に関するデータは、ホエール・ウォッチングが原因となる経済への影響を評価するために用いられる。このデータはまた、生産者余剰を計算するのにも使われる。生産者余剰は、消費者余剰とともに、経済厚生分析に含められなければならない。

総収入: ホエール・ウォッチングのツアー、そしてホテル宿泊や食べ物などの関連サービスの売上による、財政価値の総和。

ヘドニック価格法: 環境属性が持つ内在的な価格を、それらの環境上の特徴が現に取り引きされている実際の市場を見ることによって、推定しようとする試み。

産業構造: 規模等の特徴といった観点から、産業内における会社の数を記載すること。

投入―産出分析(インプット―アウトプット分析): 経済におけるすべての取引を計測する手段。定められた地方、地域、あるいは国民経済における生産や消費の流れをモデル化する技法として、投入―産出表は、経済を通じた金銭の流れを追跡するための、より洗練された手段を提供する。また、乗数効果や漏出を注意深く検証することができるようになる。投入―産出分析は、他の状況から得られた乗数を単に用いる方法に比べて、ずっと洗練された方法である。投入―産出表からは、より正確な乗数を引き出すことができる。しかしながら、投入―産出分析はきわめて詳細にわたるもので、多くの時間を消費する。これらの表は、経済において鍵となる関係を方程式の形でより正確に特徴づけようとする、投入―産出モデルに変えることによって、さらに発展できる。

投入(インプット): 燃料、ボート、労働力、契約請負人、資本等といった、ホエール・ウォッチングのサービスを提供するために必要となる財やサービス。

漏出(leakage): 地方、地域、あるいは国家といった、問題としている経済圏で、もはや再び支払いに使われることがなくなり、その代わりに外へ「漏れていってしまう」支出。(乗数を参照)

乗数: 経済乗数は、金銭が地域内において繰り返し支払いに使われる回数を示している。本質的には、1回の取引が経済を通じてもたらす効果のことである。この取引で得られた金銭が、地域社会で何度か支払いに使われることにより、経済の他部門において波及効果をもたらす。乗数は全体的な経済影響を判断する際に重要である(Bergstrom et al. 1990)。乗数は、雇用や収入について計算することが可能であり、分析のためには地域を指定することが必要である。乗数効果による経済便益は、国内の経済センターから遠く離れたところに位置することが多い、エコツーリズムの実施場所にとって重要である(Healy 1988)。しかしながら、多くの場合に著しい漏出がある。輸入品の購入を通じて支出が地域社会あるいは国家を離れていってしまうために、乗数は減少してしまう。漏出の原因となるのは、原材料や資本、消費財を含んだ様々な財やサービスの輸入、外国人の雇用、海外企業による収益が送還される場合等である。

国民経済計算の枠組み: 各国のすべての年間取引を記録して、タイプ別に分類するために、国際連合は「国民経済計算体系」を作っており、大部分の国々によって採択されている。

純経済価値: 消費者余剰を参照。

非利用価値: 対象物の直接消費を必要としない価値。ここでは、対象物はクジラ類またはホエール・ウォッチングである。

機会費用: 次善の代替案や選択肢を追い求めなかったがために、社会や個人が見合わせなければならない便益。本報告書では通常、ホエール・ウォッチングによってその地域の他の利用形態が不可能になった場合に、あきらめなければならない便益のことを指している。

選択価値: 将来のある時点における個人的利用のために、ホエール・ウォッチングが今後も存在することを知ることから得られる便益。

所有の構造: 様々な特徴の点から、会社の所有者人口を記載する。

生産者余剰: 生産の費用と市場価格との間の相違―純粋な利潤。生産者が、実際の費用以上の投入(インプット)を受け取るために進んで支払ってもいいとする、支払意志額としても定義できる。

利潤または付加価値: 年間の生産費用と年間の総売上高との差は利潤となり、また、付加価値として知られる。

準選択価値: ある人がその情報を得た場合に、ホエール・ウォッチングに参加しようと決心するのを促すような情報から得られる便益。

収益率: 年間利潤を資本価値で割った数字(それに100を掛ける)は、収益率あるいは投資収益率として知られるパーセントを示す値を与えてくれる。

社会会計マトリックス: 経済構造を記載し、地域経済における経済データを総合的に扱う、そして経済乗数も計算するようにする。

社会経済学: 社会要因と経済要因の両方を含んでいる。

空間スケール: 空間スケールは、地方的なものか、地域的か、国全体のものか、あるいは国際的なものか、どの経済が対象となる人々にとって関心があるものなのかを教えてくれる。

総合経済価値(Total Economic Value: TEV): 経済厚生分析で計測されたすべての価値の総和。正味の福祉あるいは満足の合計。表2にあるすべてのものの合計。

観光客調査: 観光客の旅行パターン、支出パターン、旅行の動機や、旅行に費やす日数とその配分を確認するために行う、旅行者の調査。

旅行費用法(トラベルコスト法Travel Cost Method: TCM): 訪問客達によって発生した実際の旅行費用を用いることによって、ホエール・ウォッチングの需要曲線を推定しようとする試み。

利用価値: 対象物を直接に使用することから受け取れる価値。直接価値とも呼ばれる。

付加価値: 利潤を参照。

厚生分析: 経済厚生分析を参照。

ホエール・ウォッチング: 特定の設定場所(ボート、飛行機、陸地)から、野生状態のクジラやイルカ類の何らかの種を見ることによる、商業的な事業。