第7章 結論

 討論の最後に、研究会参加者は作業グループに分かれて、提案するための勧告内容を検討した。以下の勧告は、この作業を通じて提案され研究会で承認されたものである。

7.1. 勧告

●ホエール・ウォッチング産業と各地域社会の利害関係者は、クジラ類、環境、地域社会、そして産業界の便益のために、長期的なホエール・ウォッチングの持続的開発の構造を支えることを明確に示す『声明』を打ち出すべきである。

●ホエール・ウォッチング産業と、研究者、政府機関、NGO、その他の関心を抱く個人やグループを含んだ利害関係者は、上記の声明を実施するためのフォーラム(例えば、『ホエールケア』)を作る必要がある。実際にはそれは、ホエール・ウォッチング産業による協会(NGOからのオブザーバーや準会員を含む)の一部となりうる。最初のステップは、『ホエールケア』のための調整委員会を設立することだろう。

●地域社会に対する高水準の便益を維持し、社会影響や環境影響について思慮する事業計画を作成し、また、教育や環境保全、調査の活動を支援するようなホエール・ウォッチングの産業構造に優先権が与えられるべきである。

●ホエール・ウォッチング事業者および幅広い観光産業、NGO、地方自治体、そして地域社会は、その地域や地方全体における社会経済的影響と環境影響の相互の結びつきを研究すべきである。ホエール・ウォッチング産業が経済的に健全であり、社会的に持続可能であり、かつ適切に規制されるようにすることで、事業者、地域社会、調整機関、NGOは、クジラ類に対する環境影響が最小限となるようにできる。

●ホエール・ウォッチングとクジラ類利用の他の方法を管理する中心原則として、予防原則が採用されるべきである。

●ホエール・ウォッチングの環境収容能力は、その確立が難しいとしても、試してみる価値のある概念である。各々の地域社会や地方全体で環境収容能力を決定し、定期的な再検討をしながら、その範囲内で業務を行うことが大切であろう。

●調整された学際的専門家チームにおいて、地域在住の専門知識を有したプロ達の助けを借りながら、ホエール・ウォッチング産業の経済的貢献と秩序ある発展が評価されるべきである。その評価は、当然のこととして、法や規制についても含むようにすべきである。

●資源競争が行われているホエール・ウォッチング社会では、環境に関する専門知識や(プロにふさわしい程度の)関心をもった経済学者を雇うべきであり、分析を行ってもらうことにより解決策を見出す手助けとなるだろう。

●政策の策定、決定、実施に関わるすべての利害関係者を含んだ共同管理の概念に基づいた、政策の枠組みが作られるべきである。この枠組みは、システム力学や地域の状況に即応し、適応させることのできるものでなければならない。

●環境影響を最小にするために、運営保証契約といった、運営を適切に行うための奨励策を適切に用いることができる。

●環境にやさしい事業者や地域社会に対する報酬として、産業賞等の奨励策が実施されるべきである。

●ホエール・ウォッチングの環境、経済、そして社会的な便益と費用を評価するために、これまで自然資源管理問題に適用されてきた様々な方法論が、系統的に用いられるべきである。これらの費用と便益は定期的に再評価されるべきである。

●NGOは、資源のバランスのとれた共同管理を確かなものにするため、利害関係者を結集させる主導的役割を果たすべきであり、また、調査、保全、教育においても積極的役割を果たすべきである。ホエール・ウォッチングの調査、保全、教育による便益を強調することは、それによってどんな環境費用をも相殺するのに役立つことから、きわめて重要である。文化的に微妙な問題や、比較文化に関する問題に注意を払うことが望ましい。

●ホエール・ウォッチングに関連するすべての側面を、長期的にモニタリングするべきである。ホエール・ウォッチング産業を定期的に検討することは、マイナスの影響を緩和し、多くのプラスの便益を高める助けとなってくれる。これは、それぞれの地域の環境、社会、そして経済的な健全さについての基礎調査による情報と統合され、それらと比較されるべきである。

●海洋保護区がさらに設立されるべきである。それらは、知名度を高め、環境保護や管理を通じて、ホエール・ウォッチングに価値を付加する手段を提供してくれる。


7.2. 研究会後の本報告書の利用

 本研究会報告書は、まず1998年5月にオマーンで開催された第50回国際捕鯨委員会のメンバーに提出されている。それに続いて、本報告書の序章1.2に述べられているような様々な関係者に対して、広く配付されるべきだという見解が研究会参加者によって示されている。さらに、いくつかのNGOは、本報告書を英語以外の言語に翻訳することを検討している。