§1. 湿地とラムサール条約

ラムサール条約:「特に水鳥の生息地として国際的に重要な湿地に関する条約」
 〜地球規模の自然環境保全を目的とした国際条約としては世界最初〜

PartT. 湿地の種類
[1] 湿地の種類
条約第1条: 湿地の定義
  内陸/淡水湿地 湿原・湖沼・河川・河畔林・浸水林
  海岸/塩水湿地 汽水湖・河口域・干潟・マングローブ林・サンゴ礁
  人工湿地     水田・ダム湖・遊水池・ため池


@ 湿原
  植物遺体や土砂の堆積←湖沼
  後背湿地←河川の氾濫の繰り返し

  泥炭:有機物の分解が進まずに植物遺体が堆積

  低層湿原 ヨシ・スゲ群落〜釧路湿原 etc.
  高層湿原 ミズゴケ群落〜尾瀬 etc.

A 汽水湖
  汽水=海水と淡水が混合
  塩分濃度=0.02%〜3.0%(海水は3.3%)
  例) 北海道風蓮湖、島根県宍道湖、静岡県浜名湖

B 干潟
  「前浜干潟」 諫早湾干潟、福岡県和白干潟
  「河口干潟」 藤前干潟、吉野川河口
  「潟湖干潟」 宮城県蒲生干潟

C マングローブ
  熱帯・亜熱帯地方の河口付近汽水域
  石垣島・西表島の河口域

D サンゴ礁  「海の熱帯林」とも呼ばれる

  サンゴ= (1)サンゴ虫群体の中軸骨格
         (2)サンゴを作る動物の総称
  褐虫藻という藻類と共生─ この藻類が光合成で作り出す物質を利用

[2] 湿地に依存する野生生物
   2.1. 水鳥  ラムサール条約の定義→ウミワシは入らない?カワセミ類?
   2.2. 哺乳類 カワウソ
   2.3. 爬虫類 ワニ、カメ
   2.4. 両生類 基本的にすべて カエル、サンショウウオ
   2.5. 魚類  基本的にすべて ムツゴロウ
   2.6. 昆虫・甲殻類 トンボ、エビ・カニ
   2.7. 貝、イカ・タコ等の軟体動物、ウニ、イソギンチャク、


PartU. ラムサール条約加盟国の義務

 1. 登録湿地/条約湿地の指定
 2. ワイズユース(賢明な利用)
 3. 保護区と研修(トレーニング)
 4. 国際協力

    (1) 国境を越えた湿地保全
    (2) 国境を越えた湿地資源の保全
    (3) 二国間・多国間援助

1. 登録湿地/条約湿地の指定
              →条約事務局が管理する 「国際的に重要な湿地」リストに登録された湿地

◆「国際的に重要な湿地」選定基準
 グループA 1. 生物地理区内で代表的、希少または固有な湿地
 グループB 生物多様性 
  2. 希少種、絶滅危惧種 または近絶滅種
  3. 生物多様性の維持に 重要な動植物の個体群を支えている湿地
  4. 生活環の重要な段階 または避難場所を提供している湿地
  5. 水鳥基準:2万羽以上の水鳥を支える湿地
  6. 水鳥基準:水鳥の種または亜種の1%を支えている湿地
  7. 魚類基準:固有な魚類の亜種、種、科、生活史の一段階
  8. 魚類基準:産卵場、稚魚の成育場、または漁業資源が依存する回遊経路
  9. 他の動物種:種または亜種の1%を支えている湿地

◆重要湿地選定(環境省)
  2002年 『日本の重要湿地500』
  2010年 潜在候補地172
  2016年4月 生物多様性の観点から 重要度の高い湿地 〔重要湿地633〕

  ・2002年 『日本の重要湿地500』
  北海道 61
  沖縄県 55
  
  鹿児島県 31
  秋田県・新潟県 17
  千葉県・兵庫県 15
  宮城県 14
  福島県・静岡県・宮崎県・長崎県 13
  青森県・山形県・徳島県 12
  栃木県・熊本県 11
  長野県・岐阜県・和歌山県・大分県 10


2.湿地の賢明な利用とは
       ラムサール条約の定義(旧)=
          「生態系の自然財産を維持し得るような方法での、 人類の利益のために湿地を持続的に利用すること」
   新定義(2005)=
           「持続可能な開発の考え方において、生態系アプローチを通じ、湿地の生態学的特徴の維持を達成すること」

ワイズユース(Wise Use)
 賢明でない利用というのはわかりやすいかも知れない
  → 持続的な利用
  → 持続的開発 (Sustainable Development)

×適正な利用 ○賢明な利用
  →「利用」を主眼とした考え方ではない


湿地のワイズユースの重要要素
 1) 社会経済的配慮
 2) 住民参加
 3) パートナーシップ(協働)
 4) 制度上の整備
 5) 沿岸域/集水域全体での配慮
 6) 予防原則の適用


 ・釧路会議で議論された内容は:
 「集水域」全体で考慮する
 行政とNGOのパートナーシップ
 住民参加 (←情報公開)
 明確な湿地政策を持つこと
 科学的情報の蓄積(資源量etc.)
 伝統的知見の再評価
 環境アセスメント



1) 社会経済的配慮
 南フランス〜カマルグ湿地
  湿地の役割:観光資源、湿地の水が地域の農業を支えている役割など….
地域の行政、農業従事者、地域住民が共通認識を持つ。
2) 住民参加 地域住民による湿地管理への参加
3) パートナーシップ(協働)
 中央政府と地方政府;行政と企業、市民、NGOとの協働
4) 制度上の整備 できれば法律上の根拠があった方が長続きする。
5) 沿岸域/集水域全体での配慮 集水域の中における個別湿地の保全
6) 予防原則の適用
 最善の科学的知見で影響が予測できない場合は、湿地の改変を中止する。

PartV. ラムサール条約の仕組み
[1] 条約の機構
 1.締約国会議(全体会議、3年に1度)
 2.常設委員会(地域代表、毎年会議)
 3.条約事務局(事務と技術職員)
     rue Mauverney
    1196, Gland, Switzerland
 4.諮問委員会(助言を行う専門家会議)

[2] 締約国を支援する仕組み
 1.途上国のプロジェクトを支援する基金
 2.専門家集団の派遣
 3.仲介・調整・調停 (2国間・多国間・政府とNGO・政府内)
 4.地域会合

国際環境条約の意義
  Brown & Green
  湿地への脅威  干拓・埋立・乾燥化・汚染・過剰利用
  悪くいえば外圧、良くいえば動機付け

PartW. 釧路会議の意義
1.カリアリー会議(1980) イタリア
2.フローニンヘン会議(1984) オランダ
3.レジャイナ会議(1987) カナダ─ 条約改正案の採択
4.モントルー会議(1990) スイス─ モントルーレコード

5.釧路会議(1993) 
 i. 普及啓発・環境教育・ 研修 (Capacity building)
 ii. 賢明な利用(ワイズユース)
 iii. 湿地の管理計画
 iv. 干潟の保全


6.ブリスベン会議(1996) オーストラリア
 i. 魚類資源
 ii. 生態学的な特徴とその変化
 iii. 湿地の経済的価値
 iv. 地域住民参加
 (v. 環境庁/自治体/NGO) 『ラムサール条約第6回締約国会議の記録』
    ●シギ・チドリ ネットワーク

7.サンホセ会議(1999) コスタリカ─ 途上国最初のラムサールCOP
8.バレンシア会議(2002) スペイン
 [決議1] Resolution 1: 21世紀の水資源 ─ 貴重な「淡水」
 E 湿地再生の原則
   ●人工湿地は自然湿地の代償とはならない
   ●まず現存する湿地の保全が最優先

9.カンパラ会議(2005) ウガンダ─ アフリカ大陸最初のラムサールCOP
10.昌原会議(2008)  韓国─ アジアで2回目のラムサールCOP
11. ブカレスト会議(2012) ルーマニア─ 東ヨーロッパ最初のラムサールCOP
12. プンタ・デル・エステ会議(2015) ウルグアイ─ 南米最初のラムサールCOP
13. ドバイ会議(2018)アラブ首長国連邦─ アジア地域3回目、中東最初のラムサールCOP
14. ??(2021) ラムサール条約誕生50周年




Part X. 湿地の機能と湿地資源
1.湿地の機能(物理的サービス)
 1.1. 地下水 貯蔵/排出
 1.2. 洪水・浸食の抑制
 1.3. 堆積物や有害物質の保持
 1.4. 栄養素の維持/有機物の運搬
 1.5. 防波堤や防風林
 1.6. 微気候の安定化
 1.7. 水の輸送・浄化


2.湿地を資源としてみた場合の利用方法
 2.1. 森林資源
 2.2. 動物資源
 2.3. 漁業資源
 2.4. 農業
 2.5. 水
 2.6. 観光

3. 湿地の土地利用
  3.1. 農業
  3.2. 漁業(栽培) 養殖漁業
  3.3. 水上交通

4.属性(湿地の独特な側面)
  4.1. 生物多様性
  4.2. 文化遺産


 各国政府にとって条約に加盟することの意義は?
 1.3.1. 途上国のプロジェクトを支援する基金
 1.3.2. 専門家集団の派遣
 1.3.3. 仲介・調整・調停 (二国間・多国間・政府とNGO・政府内)
 1.3.4. 地域会合

『世界湿地の日』(毎年2月2日=ラムサール条約が採択された日)
 2017年のテーマは「湿地と災害リスク減少」

極端な気象条件に対応する5つの湿地タイプ:

1. マングローブ林
・塩水に耐性のある樹木・灌木
・沿岸の浅海域に生育、大部分が熱帯・亜熱帯地域
・根が海岸域を支え、浸食を防ぐ
・マングローブ林が1km増えるごとに高潮の高さを50cm抑える効果がある
・台風(サイクロン、ハリケーン)及び津波の影響を緩和
・炭素貯蔵の役割を果たす熱帯林
・1haのマングローブ林は年間換算で15,161米ドルの災害防除機能をもつ

2. サンゴ礁
・熱帯の浅海域に見られる堅牢な構造
    - 生きている小さなサンゴポリプ(サンゴ虫)によって、一世代前が構築した外骨格の上に形成される
・全海洋生物の25%が生活
・高波に対する沖合の重要な緩衝体として働く
    - 保護機能は年間1ha当たり33,556米ドルに相当
・比較的少額の投資に対して絶大な効果を生む:
    - バルバドス西海岸のフォークストーン海洋公園では、サンゴ礁再生における年間100万米ドルの投資によって、
     嵐による損害を2000万ドル減少させることが出来た。

3. 河川と氾濫原
・蛇行する大小の河川によって肥沃な氾濫原が堆積される
・改変されなければ、内部の湖沼群ネットワークとともに、巨大な遊水池として機能する
・集中豪雨や鉄砲水の際には、広い地域に水を分散し貯蔵することが出来る
    - 下流域への影響を緩和
・特に都市近郊では多くの河川が用水路化し、こういった自然の治水機能が損なわれている

4. 内陸デルタ
・水が内陸の広大な平地にある湖に流れ込むような場合に内陸デルタが形成される
・極端に乾燥した地域では、こういった季節的な河川が干ばつであっても水を提供してくれる
・ボツワナのオカバンゴ・デルタでは毎年ベルギーの国土と同じ面積が冠水する
    - 20万頭の大型哺乳類が生息
    - 400種の野生鳥類
    - 乾季の干ばつに対する安全装置

5. 泥炭地
・水分の多い土地で、植物遺体が完全には分解されずに堆積し長い年月をかけて形成される
    - 最大では30mの深さとなる
    - 湿原(高層湿原や低層湿原など)とも呼ばれる
    - 地表の 3%を占める
・注目すべき事実: 泥炭地は世界中の森林を合わせた量の2倍以上にも及ぶ炭素を貯蔵している:
    - 気候変動の影響を緩和するために極めて重要








        
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