§7. 日本の野生動物の現状

[1] ニホンカモシカ
  ウシ科のレイヨウ類 日本固有種
       (台湾にはタイワンカモシカ)
  1955年(昭和30年) 特別天然記念物
    →文化財保護法の規定により国宝と全くの同格扱い

  1973年(昭和48年) 食害騒動勃発
    岐阜県小坂町
  「カモシカかヒノキか」

  1975年 文化庁の指示による日本最初の「カモシカ生態調査団」発足。
  1976年 青森県脇野沢村ではミョウガなど農作物への食害が出始めていた。

「カモシカに造林地を食い荒らされた。大変な被害だ。明日の米代にも困っている。」
「カモシカはヒノキの苗木を食い荒らすだけで、人間の役には全く立っていない。」
 →「被害を補償しろ」「射殺しろ」

「食害防除のため、造林地からの排除が目的であり、相手が国の特別天然記念物であるため、
文化庁より『現状変更』の許可を得て、安全に『保護捕獲』する」
→ 2000頭 捕殺

「山村民の生活を守るため、やむを得ず、造林地からカモシカを排除するのであって、
決して殺すのが目的ではない。罠では効果がなかった。麻酔銃では、かえってカモシカにとって危険である。
急峻な斜面での捕獲作業であるため、麻酔弾が当たってから薬が効くまでの間、カモシカが暴れて、
崖から落ちて死ぬ恐れがある。だから一番安全で確実な方法は、実弾銃で足を撃ち、
直ちに獣医が手当をすることだ。」

被害の実態調査:
 行政は実施せず、自然保護団体が行う。

※ウシ科の動物の特徴として、上顎の門歯と犬歯が欠落。
∴ 上の前歯がない。したがって、ヒノキの柔らかい新芽、すなわち頂芽の部分しか食えない。

ヒノキは、柱材や板材として、まっすぐ上に伸びることに、価値がある。だから
「頂芽を食われた苗木は、上に伸びることができず、盆栽状になり、材としての価値は壊滅だ。」と言われていた。
→頂芽がカモシカに食われても、その直下の枝が上に伸び、主軸再生。

「食痕がコブになる」「曲がりになる」
さらに、上に伸び続けている事実が明らかになると、「アテ(芯が曲がること)になる」

「伐採業者から『食害にあった木だから』と買いたたく口実になるだけでも、食害は立派な被害なんだ」

食われても大丈夫というのではない。何度も食われたら育たないが、
頂芽を食われてもヒノキは育つ。食い続けられなければ大丈夫。」

●ポリネット防除 自然保護団体と
全国の学生ボランティアによる努力

●電気柵
→ 隣接地主からクレーム:「今まではカモシカに、平等に食われていたのに、
柵で閉め出された分だけ、当方の被害が大きくなる。柵を撤去するか、
さもなければ被害額を補償しろ」

[2] ニホンザル
 最も古いのは肉用の狩猟
 次いで薬用の狩猟があり、中世のキモから、近世以降の黒焼きにかわる。
 塩漬け肉も薬に
 宗教上の保護も
 ⇒サルを捕殺してはいけないという地方は、日吉神社中心の滋賀県のある部分だけ。
一般にはけもの全般の殺生をとがめる仏教的な教えの方が広く存在。
 むしろ猟師の個人的経験によって、人間に似ていて気持ちが悪いので撃たないという場合が多く、
現存する日本最大の連続分布地域である紀伊半島でも、サルについて特別なタブーは存在しなかった。

  マタギ系の猟師 〜サルを撃つのを当然と心得ている。

  ブナ帯(北日本〜北陸)  絶滅箇所多い ← 低密度生息&雪の影響
  炭焼きが広く行われていた地域:分布維持

(1) 有害駆除の許可はなくとも 駆除は行われている。
(2) 有害駆除は個体数管理 にはつながらない。
    ある県:オス40%、メス20%、アカンボ25%、コドモ15%
         アカンボを失ったメスは翌年ほぼ確実に出産する。
         ∴有害駆除 ⇒ サルの繁殖能力を引き出す
(3) 銃器駆除と檻捕獲
    ある県: 銃器による駆除は30%、捕獲檻による駆除は70%
    →捕獲檻により捕獲されたサルの処分方法の50%が銃殺。
      26%が溺殺、22%が撲殺、一部は大学の医学部歯学部へ
  ※捕獲されたサルを再び放獣することも
    →サルのいない山で放す場合、サル被害の輸出となる。
(4) リンゴ捨て場とリンゴ畑
    前者で餌付けして後者で駆除

[3] ツキノワグマ
 九州: おそらく絶滅
 四国: 一部地域のみ
 本州: 地域個体群として隔離されていく傾向

 ツキノワグマが林業上、有害獣にされ狩猟期間以外でも有害獣駆除という名のもとに、
1頭につき5〜10万円の捕獲奨励金がつけられ、一年中鉄砲で追いたてられるのは、
ツキノワグマが人を襲う危険性があるからではなく、スギやヒノキなどの有用な針葉樹の
樹皮を剥いでしまうからである。

「クマハギ」
全周囲剥がれてしまえばもちろん、90%以上剥がれても木は枯れてしまう。
一部の剥皮だけで枯れなくても、かじられた部分が腐ってしまい、木材として利用できる
部分が少なくなったり、材としての価値が減ってしまう。
 (現時点では、サインポストとして考えられている)

 クマハギ被害が昔からクマの多いと言われる東北地方や立山、白山などの裏日本になく、
中部地方の太平洋側、関西地方に多いこと、関西でも地域によってクマハギのまったく
見られないところもあり、まだはっきりとはわかっていない。

お仕置き放獣


[4] イノシシ
 経済的価値が大。
 肉食禁止の江戸時代ですら、「薬食い」と称して江戸でも上方でも、
 イノシシは賞味されていた。

個体数、分布域とも変動が大きいと考えられている。

兵庫県北部
 戦前:全く見られなかった。
 1945〜50年:急速に分布域拡大
 〜1900年: ふつうに見られたらしい。
 (50年ほど姿を消し、また現れてきたことになる。)
福島県
 大正の初めには県下全域にいた
 昭和に入って絶滅。
 現在再び捕獲対象に。

岩手県:1890年頃が最後の記録、再び復活。
小豆島
 延長120qのシシ垣
  ⇒イノシシやシカの被害がきわめて大きかったことを物語っている
 ところが1875年にシカとともにイノシシに病気が流行して、イノシシはついに絶滅。


[5] 「鳥獣保護法」改正
 正式名称=「鳥獣保護及狩猟ニ関スル法律」

1872年(明治5年)「銃砲取締規則」&1873年「鳥獣猟規則」
1895年「狩猟法」制定
 しかしこの頃から乱獲により野生動物の減少が顕著になってきた。
1918年(大正7年)
  「鳥獣保護法」改正
  狩猟できる動物を特定し、
  それ以外の種は捕獲を禁止
1963年(昭和38年)野生動物保護の思想も盛り込み現行法の形へ

「鳥獣保護を実施し及び狩猟を適正化することにより、鳥獣の保護繁殖、
有害鳥獣の駆除及び危険の予防を図り以て生活環境の改善及び農林水産業の
振興に資することを目的とする」

@特定の鳥獣の計画的な保護・管理を行うこと
A捕獲許可権限を地方に移し、都道府県が保護管理計画を作ること
  (北海道以外では難しいという指摘も)

※密猟は日常茶飯事?:
 狩猟期間以外の捕獲行為
 狩猟対象外の種の捕獲
 指定頭数以上の捕獲
 指定性別以外の個体の捕獲
これらを取り締まる体制・能力はない

※被害を出した個体を捕獲するのではなく、役所で設定された頭数を
間引くだけの捕獲行為であることに注目
  But 「被害を出す個体を特定して駆除することは困難」
地元ハンターの場合、安い日当で、本来の仕事の合間に呼び出されて、
獲物を殺せば悪人扱いされる駆除を、好んでやっているわけではない。


野生動物に未来はあるか
(1) 人間と野生動物の共存は可能か
     可能―ただし、人間がその気になれば
(2) 林業行政・農業行政の失敗のツケ?
     ⇒野生生物の生息地である(=環境)という視点がこれまで欠如

野生生物の絶滅をなぜ心配するのか
 (1) 資源主義
   ←将来の品種改良や薬用植物
 (2) 経済主義: 絶滅=経済的損失
 (3) リベット主義 
    種の絶滅⇒生態系の崩壊
 (4) カナリア主義 人間の生活環境の悪化
 (5) 尊厳主義 野生生物種の価値と尊厳




            
         前ページへ戻る