決議IX.23 高病原性鳥インフルエンザと湿地及び水鳥保全とワイズユースに対する影響

1. 2003年後半以来、その地理学的範囲、悪性伝染力において歴史上先例のない高病原性鳥インフルエンザ(HPAI)の発生が、家畜化された鳥(主に家禽)の飼育に直結した地方における人々の生計と、(少なくともラムサール条約登録湿地3ヶ所での水鳥の大量死を含めた)自然保護上の価値に多大な影響を及ぼしつつあることを意識し、そして高病原性鳥インフルエンザのユーラシア全域における西に向かっての拡大に伴い、高病原性鳥インフルエンザが最近確認された国が増加しつつあることを認識し;

2. 現在の高病原性鳥インフルエンザ(H5N1型) が遺伝子学的に再結合するか、適応して人間同士で感染可能な型へ突然変異するかのいずれかとなるならば、ヒトインフルエンザの大流行による健康そして社会経済的の地球規模での予測しうる結果を重く認識し;

3. 特に多くの国々において家畜化された鳥、また野生の鳥が地方に住む人々の生計の基盤として重要であることを鑑みると、高病原性鳥インフルエンザの現在の蔓延に対して適切に対応することで、発展途上国が直面している困難を留意し;

4. しかしながら、現在問題となっている高病原性鳥インフルエンザの系統に関して今までに知られている人間の感染症例は全て、感染した家禽との接触、もしくはその消費によるもので、野鳥との接触によるものはないことに配慮し、高病原性鳥インフルエンザ(H5N1型)の拡大に関する水鳥の可能な役割について懸念することで、 湿地保全とりわけラムサール条約湿地や水鳥に重要な他の湿地保全に対する、一般の人々の態度及び支援が、損なわれるような影響を受けうることを認識し;

5. 家禽、それ以外の鳥類家畜、かごに入れて飼われている鳥の移動と、それぞれの産業にサービスを提供する関連活動を通して、合法及び非合法の鳥の取引を通して、そして渡りを行う水鳥を通して、といった数多くの異なる媒介者によって高病原性鳥インフルエンザが国々の間を広がってきたと考えられていることに留意し、感染拡大に関するこれらの形態の相対的な重要性は異なっていること、多くの事例における因果関係の証拠は弱いか欠けていることを意識し;

6. この問題に関して、特に2005年5月における『高病原鳥インフルエンザの漸進的管理のための世界戦略』の発行とその実施、とりわけ、『鳥インフルエンザの早期発見と予防のための緊急支援』地域プログラムを通した、食糧農業機構(FAO)、世界保健機構(WHO)、国際獣疫事務局(OIE)の主要な関与を大いに歓迎し;

7. さらに、監視体制及び危機対策の計画策定は、各国ごとに決定される必要があるものとしても、国際協力による重要な利点があることについても留意し;

8. 特にボン条約(CMS)によって2005年8月後半に招集され、国連4機関を含む9つの国際機関の代表及びオブザーバーによって組織された、「鳥インフルエンザに関する科学作業部会」をはじめとする、様々な調整メカニズムへの条約の参加を意識し、また、「アフリカ-ユーラシア渡り性水鳥保護条約」の『鳥インフルエンザ』に関する決議3.18についても留意し;

9. しかしながら、高病原性鳥インフルエンザの広がり、それがもたらすかも知れないリスク、そして高病原性鳥インフルエンザの大流行をどのように予測し対応するか、といった問題に関わる重要な内容に関して、多くの国々では重要な情報が欠けており、またいくつかの国においては一般の人々による誤解がある点を、大いに懸念し;

10. 渡り鳥の飛行ルート沿いにある相対的にリスクの高い地域を特定することや、大流行に対して何らかの政策的対応をする場合にそれらが情報提供の中で果たす役割といった、現在の高病原性鳥インフルエンザの広がりが今度どうなりうるかといったシナリオ作りにおける基本的な情報源として、鳥の移動や水鳥個体数調査に関する広範かつ長期にわたるデータ集とそれらを扱う専門家のネットワークがとりわけ重要であることを認識しつつ、そのようなデータとネットワーク、その他の情報を入手し分析すること、そしてこれらの要素を科学的に理解するために欠けている重大な欠陥を埋めることが至急必要とされていることを留意し;

11. さらに、1997年香港、2004年日本におけるH5N1型の流行、2003年オランダ、ベルギー、ドイツにおけるH7N7型の流行は、厳格な管理と生物保安上の手段を用いることによって、すべて成功裡に根絶することが出来たけれども、高病原性鳥インフルエンザは現在、獣医学上の能力が限られている国々ではコントロールが実際上難しいことを強調しつつ、アジアのいくつかの部分で地域特有となっている模様であることを想起し;

12. 高病原性鳥インフルエンザのために湿地と水鳥個体数を監視する活動及び計画が各国ごとに実施されていることを認識し;

13. 水鳥保護及び将来における鳥疾病流行の管理がより良く行われるよう準備を進めたり、リスク評価を行えるようにする、あるいはそれが行われている場合には改善が図れるようにするため、特に「鳥インフルエンザに関する科学作業部会」によって特定された調査のように、野生鳥類個体群における病気の進行過程や、水鳥の渡りや水鳥の取引に関する調査や監視の強化の必要性、鳥の保護及び個体群調整に関して情報が持つ潜在的な重要性を鑑み、情報共有を速やかに行い継続することの必要性を留意し;

14. さらに、動物福祉の観点から求められる事項と湿地センターや動物園が湿地の普及啓発(CEPA)において果たす重要な役割を配慮しつつ、そういった施設において野生の水鳥と飼育下の鳥や他の動物との間において高病原性鳥インフルエンザが伝染される可能性があるというリスクを認識し;そして

15. さらに高病原性鳥インフルエンザのリスク評価を含めた、広い範囲に渡る国家的及び国際的な保全政策に情報を提供する手段として、特に「国際水鳥センサス」とその報告等、さらにはラムサール条約決議VIII.38を通じて、水鳥個体群の長期的監視体制を発展させるための長期的な資金提供の枠組みを確立するよう、ラムサール条約と他の支援を要請した「アフリカ-ユーラシア水鳥保護条約」の決定(決議3.6)を意識し;

                                               締約国会議は

16. 獣医、農業、ウイルス学、疫学、そして医学的専門知識をはじめとする、公衆衛生及び人畜共通感染症にこれまで責任のあった部門とともに、鳥類学、野生生物及び湿地管理の専門知識を一緒にすることによって高病原性鳥インフルエンザに対処するため、国家的レベル及び国際的レベルの両方において、十分に統合された取組を求める;

17. 間引きなどの殺傷手段を通じて野生鳥類の個体群における高病原性鳥インフルエンザを取り除こうとする試みは実現可能ではなく、感染した鳥の拡散を起こすことによって問題を悪化させかねないという、WHO、FAO、OIEの結論を支持する。

18. 家畜化された鳥と野生の鳥との間の接触を減らす目的で、湿地生息地を破壊したり大規模に改変したりすることは、条約第3条1項で求められている賢明な利用に相当するものではないこと、また、さらに感染した鳥の拡散を起こすことによって問題を悪化させるかもしれないことを強調する;

19. 「鳥インフルエンザにおける科学作業部会」に条約が(STRP及び条約事務局の適切な担当者を通して)、このグループが電子的に通信することに留意して、資金的及び人員的に可能な限り、継続して参加することを要請する;

20. 病気感染の潜在的なリスクに関して、各国が緊急対策あるいは活動計画を策定し実施することの重要性、そして鳥、特に湿地に依存する種の中で高病原性鳥インフルエンザが検出された場合に国家として用意が行われているようになっている必要性を強調する;

21. 条約の対象としてふさわしい監視体制に対し、長期にわたって資金支援を行えるようなパートナーシップを確立することができるかどうか、出来うる限り早い機会に検討するよう条約事務局長に要請する;

22. 農業と水産養殖業のための適切な水準を定めることが基本的に必要だという点、生物安全保障(バイオセキュリティ)の強化を通して、野鳥と飼育下の鳥との間で病気感染のリスクを制限する戦略を開発する必要性とに留意する;

23. 高病原性鳥インフルエンザに関連した緊急対策及び湿地管理計画を作成中の機関に対して、「鳥インフルエンザに関する科学作業部会」とともに、野生、飼育下、そして家畜化された鳥との間で病気感染のリスクを減らす実際的な手段に関して、適切なインプットを提供するようSTRPに強く求める;

24. この深刻かつ急速に展開しつつある状況に対応するよう、そして常設委員会及びCOP10に進展について報告できるよう、国々を支援する実際上の助言をはじめとする情報共有において、適切な国際機関と「鳥インフルエンザに関する科学作業部会」とともに、STRPと条約事務局が支援を行うよう要請する。